公正取引委員会は2月9日、AppleとGoogleの提供するモバイルOS、とくにアプリストアにおいて競争環境が機能していない、とする報告書を公開しました。報告書の作成段階でAppleとGoogleは、独占禁止法上の問題となるような取り扱いはしていないと説明しています。
台数ベースのシェアでiOSは46.6%
公正取引委員会が公表した「モバイルOS等に関する実態調査報告書」は、2001年10月に発表された方針に基づき、2022年2月に実施した消費者アンケート、2022年3月に実施したアプリ開発事業者向けアンケートのほか、AppleとGoogleへの書面での意見聴取、有識者ヒアリング、オーストラリアとイギリスと欧州の規制当局との意見交換を経て作成されています。
現在、モバイルOSの利用端末台数ベースのシェアは、Androidが53.4%、iOSが46.6%と、GoogleとAppleの2社による寡占状態にあります。
また、アプリストアの売上高1兆5,900億円のiOSはApp Store以外からのインストールを認めていません。売上高1兆400億円のAndroidも82.7%がGoogle Playからのインストールで、純正アプリストア以外からのインストール(サイドローディング)が可能なAndroidでさえ、ほぼGoogleの独占状態にあります。
「iPhoneが値上がりしたら乗り換える」はわずか3.4%
こうした状況について公正取引委員会は、利用者の多いモバイルOSはアプリ開発者にとって魅力的であることから提供されるアプリが増え、それによって利用者がさらに増える「間接ネットワーク効果」が生じており、利用者は使い慣れたOSからの乗り換えに抵抗を感じる「ロックイン効果」が発生しており、十分な競争圧力が働いていない、と指摘しています。
公正取引委員会が実施した消費者アンケートでも、利用しているスマートフォンの端末価格が5%〜10%上昇した場合、OSを乗り換えるとの回答はiPhoneユーザーで3.4%、Androidユーザーで5.8%しかいませんでした。
独禁法上の問題との懸念にAppleとGoogleが反論
公正取引委員会は、以下のような行為が独占禁止法上、問題になる可能性があると指摘しています。AppleとGoogleはそれぞれ、見解を述べています。
- スマートフォンの本体機能へのアクセスで自社製アプリを優先すること(Appleはセキュリティとプライバシー保護のためと説明。Googleは差をつけていないと説明)
- アプリストアで自社製アプリを有利に扱い他社製アプリを排除すること(Apple、Googleとも差はつけていないと説明)
- 他社製アプリから生成されるデータやアプリ審査時に得られる情報を、自社アプリや製品の開発に利用すること(Appleはデータは端末上で処理しており情報は共有していないと説明。Googleはサービス向上目的で特定のデータを収集するが、非公開データが自社の有利になるよう使うことはないと説明)
- プリインストールアプリのアンインストール不可、デフォルト設定の複雑化(Appleは他のアプリへの変更が可能と説明。Googleは端末製造各社にGooogle製アプリのプリインストールする義務はないと説明)
- アプリ開発者に対して有利な立場にあるAppleとGoogleが、アプリストアの手数料を著しく高額に設定すること(AppleはApp Store創設時アプリ開発促進に最適なモデルと考えた、他のソフト販売業者は30%以上の手数料を課していたと説明。Googleはほとんどの事業者は手数料を支払っていないと説明)
「他事業者を妨害せず、自らもイノベーションを」
報告書では、AppleとGoogleに対して、消費者とアプリ開発者の不利益とならないよう公正な競争環境の整備を求めるともに、サードパーティーが新たなエコシステムを構築することを妨げることなく、自らも絶えずイノベーションをもたらすよう努めるのが望ましい、と述べています。
なお公正取引委員会は、セキュリティやプライバシー保護を理由とした主張の妥当性を検証するには、高度な専門的知見と多大な検証作業が必要、と諦め気味の見解を示しています。
公正取引委員会が公開した報告書の本体は、本体が157ページというボリュームですが、興味深いデータも多く掲載されているので、関心のある方はご一読をお勧めします。
ティム・クックCEOと岸田首相の会談でも話題に
Appleのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、2022年12月に来日した際に岸田文雄首相と会談しました。
会談では岸田首相がクックCEOに、iPhoneもマイナンバーカード機能に対応するよう要請したのに対して、クックCEOは重要な個人情報をiPhoneで取り扱う場合、iPhoneのセキュリティが保たれていることが重要だと語り、日本でも検討が進むサイドローディング義務付けを再考するよう求めたと報じられています。
iPhoneのブラウザやメールアプリは変更可能に
AppleやGoogleが独占的との指摘は、すでに各国の規制当局からなされています。
Appleは、2020年にリリースしたiOS14で、iPhoneのデフォルトWebブラウザアプリやメールアプリをユーザーが変更できるようにしています。また、削除可能なプリインストールアプリは年々増えており、必要になったらApp Storeから再インストール可能にしています。
Source:公正取引委員会, 日本経済新聞
(hato)
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